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オラクル(ORCL)2026年度Q1決算レビュー|クラウド成長と利益停滞の狭間

By Staff | 2025-09-21

Category: マーケット情報

米オラクルが発表した2026年度第1四半期(2025年6〜8月期)決算は、一見すると華々しい内容に見えます。

 

売上高は前年同期比12%増の149億ドルに達し、特にクラウド事業の急成長が全体を押し上げました。

 

なかでもクラウドインフラストラクチャ(IaaS)は54%増と驚異的な伸びを示しています。

 

しかし、最終利益は29億ドルと前年から横ばい。

 

売上の伸びがそのまま利益に結び付いていない点が今回の決算の特徴です。

 

投資家にとっては、この「売上成長と利益停滞のギャップ」をどう評価するかが重要な論点となります。

 


 

クラウド事業が成長を牽引

 

オラクルの売上の約86%を占める「クラウド&ソフトウェア部門」は、依然として成長の中心です。

 

  • クラウド売上は72億ドルに拡大

     

    • インフラは33億ドル(前年比+55%)
    • アプリケーションは38億ドル(前年比+11%)

       

  • ソフトウェア売上は57億ドルで微減

     

    • ライセンスは12%減の7.7億ドル
    • サポートはわずかに1%増の50億ドル

       

クラウド成長の裏側で、従来型ソフトウェアライセンス収入は縮小が続いており、事業ポートフォリオの変化がより鮮明になっています。

 


 

セグメント別の業績動向

 

オラクルは「クラウド&ソフトウェア」「ハードウェア」「サービス」の3部門で事業を展開しています。

 

  • クラウド&ソフトウェア部門(売上129億ドル、前年比+13%)

     

    • クラウド売上は72億ドルまで拡大
    • インフラは33億ドル(前年比+55%)
    • アプリケーションは38億ドル(前年比+11%)
    • ソフトウェア売上は57億ドルで微減
    • ライセンス収入は7.7億ドル(前年比-12%)
    • サポート収入は50億ドル(前年比+1%)
    • 部門費用は24%増の52億ドルに膨らみ、利益率は63%から60%に低下

       

  • ハードウェア部門(売上6.7億ドル、前年比+2%)

     

    • Exadataを中心に堅調
    • 費用は2.2億ドルと微増、利益率は67%で安定

       

  • サービス部門(売上13億ドル、前年比+7%)

     

    • 売上増加に加え、貸倒引当金の減少で費用は5%減少し10億ドルに
    • 利益率は前年の16%から25%へと大幅改善

       

クラウドインフラの爆発的成長が全体をけん引する一方、伝統的なソフトウェアライセンスの縮小と費用増が重しとなっています。

 


 

キャッシュフローの動向

 

巨額の投資はキャッシュフローにも表れています。

 

  • 営業キャッシュフロー:81億ドル(前年74億ドル)と堅調
  • 投資キャッシュフロー:-87億ドル(前年-28億ドル)、主因は設備投資
  • 財務キャッシュフロー:+2.1億ドル(前年-46億ドル)
  • 配当支払い14億ドル
  • 債務返済11億ドル

 

キャッシュ全体では3.4億ドルの減少となり、財務の柔軟性には短期的な課題が残ります。

 


 

インフラ投資の急拡大とキャッシュフローへの影響

 

今期の決算で最も目を引くのは、インフラ投資の規模です。

 

  • 設備投資は前年同期の23億ドルから85億ドルへと急増
  • データセンター関連のリース契約は998億ドルに達し、今後数年間で実行される見込み
  • 四半期終了後もさらに66億ドルの新規契約を追加

     

この巨額投資はクラウド需要に応えるためですが、同時にフリーキャッシュフローを大幅に圧迫しています。

 

前年はプラスだったフリーキャッシュフローが、直近1年間では約59億ドルのマイナスに転じています。

 

短期的な財務負担を許容してでも、長期的なシェア拡大を優先する経営姿勢が明確に示されました。

 

短期的にはキャッシュフローを圧迫していますが、AWSやAzureと肩を並べるための必須投資といえるでしょう。

 


 

驚異的な受注残高(RPO)の増加

 

もう一つの注目点は、将来収益の見通しを示す「残存履行義務(RPO)」の急増です。

 

  • 2025年8月末時点で4,553億ドルに到達
  • 前年同期の991億ドルから約4.6倍の急拡大
  • 大型クラウド契約の締結が主因

     

この数字はオラクルが長期契約を大量に確保していることを示しており、将来の収益安定性を裏付ける一方で、実際の収益計上は数年先にずれ込む構造になっています。

 


 

利益率の低下とリストラクチャリング

 

営業利益は43億ドルと前年から7%増加したものの、営業利益率は30%から29%に低下しました。

 

主な要因は以下の通りです。

 

  • クラウド事業に関連するコストの増加
  • 研究開発費の上昇
  • 構造改革費用(従業員削減など)

 

また、2026年度に開始されたリストラクチャリング計画では、最大16億ドルの費用が見込まれています。

 

第1四半期だけで4.15億ドルが計上され、効率改善とクラウド事業への集中が狙いです。

 


 

法務リスクと規制対応

 

オランダではGDPR関連の集団訴訟が進行中で、欧州におけるプライバシー規制への対応も引き続き課題です。

 

会社側は最終的に財務への重大な影響はないとの見解を示していますが、訴訟リスクは無視できません。

 


 

今後の展望:ハイリスク・ハイリターンの戦略

 

今回の決算を総括すると、オラクルは「短期利益を犠牲にしてクラウド市場での長期的な覇権を狙う」戦略を鮮明にしています。

 

  • 巨額投資によるインフラ基盤の拡充
  • 4,500億ドル超の受注残高による長期安定性
  • 一方で利益率低下とキャッシュフロー悪化

 

投資家にとっては、将来の収益成長を信じて保有を続けるか、それとも短期的な収益性低下をリスクと見るかで評価が分かれる局面です。

 


 

よくある質問(FAQ)

 

Q: 今期の売上増加の主因は何ですか?


A: クラウドインフラ事業の54%増が大きな牽引役となりました。

 

Q: 設備投資の急増は財務にどんな影響を与えていますか?


A: フリーキャッシュフローがマイナスに転じ、短期的な資金圧迫要因となっています。

 

Q: RPO(残存履行義務)が急増したのはなぜですか?


A: 大型の長期クラウド契約を複数締結したためで、今後の収益源として期待できます。

 

Q: 利益率が低下したのはどのような要因ですか?


A: クラウド関連コストの増加、研究開発費、リストラクチャリング費用が主因です。

 

Q: 投資家にとっての最大のリスクは何ですか?


A: 短期的なキャッシュフローの悪化と法務リスク、そして巨額投資が将来的に十分なリターンを生まない可能性です。

 

 

Tags: 個別株 ORCL
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投資忍者 プロフィール

米国株の投資情報、個人投資家向けの投資戦略、米国株式投資関連情報などを配信しています。

「企業の業績と株価は長期的に統一する」という考えで、米国株の長期的投資をしています。オプション取引では短期的には市場はランダムに動くと考えて取引しています。

元米国不動産アナリスト。米国MBA保有。海外生活約25年。個人投資家兼オプショントレーダー。