← トップ

ウェルズ・ファーゴ(WFC)の配当政策と再建:金融危機と2020年減配を乗り越えて

By Staff | 2025-09-16

Category: 配当成長投資

ウェルズ・ファーゴ(Wells Fargo、ティッカー:WFC)は米国を代表する大手銀行のひとつであり、かつては安定配当株として投資家から厚い信頼を得ていました。

 

しかし、2008年の金融危機や2016年の不祥事、そして2020年の大幅減配と、長期投資家にとっては試練の多い歴史を歩んできました。

 

近年は配当を回復させつつあり、再建の進展が注目されています。

 


 

1. 金融危機での大幅減配

 

リーマンショック前の2008年、WFCは年間配当1.30ドルを支払っていました。

 

しかし2009年には0.49ドルにまで落ち込み、約62%の減配となりました。

 

多くの米銀が同様に減配を余儀なくされたものの、WFCにとっては「安定株」のイメージが崩れる大きな出来事でした。

 


 

2. 2010年代の回復と安定期

 

金融危機を乗り越えると、WFCは配当を徐々に引き上げ、2015年には年間1.475ドル、2019年には1.92ドルに到達しました。

 

米銀株の中でも高い利回りを誇り、投資家から再び支持を集めた時期です。

 

  • 2015年:1.475ドル

     

  • 2019年:1.92ドル(安定期のピーク)

     

この頃に購入した投資家は、年率3%前後のインカム収入を享受できていました。

 


 

3. 2020年の減配 ― コロナ禍よりも「事業の弱さ」

 

2020年、WFCは四半期配当を0.51ドルから0.10ドルへと大幅カットしました。

 

名目上は「コロナ禍での不透明感に対応」という説明でしたが、実際の理由はより根深いものでした。

 

  • 弱い収益力:2020年Q2に24億ドルの純損失を計上。純金利収入も落ち込み、事業収益全体が大きく減少。
  • 信用損失引当金の増加:景気悪化を見込み、不良債権に備えて大規模な引当金を積み増し。
  • 規制圧力:FRBのストレステストで資本維持が重視され、配当削減は既定路線に。
  • 資本制約:収益力が乏しい状況で配当を維持するのは困難と判断。

 

ここで重要なのは、バンク・オブ・アメリカ(BAC)やJPモルガン(JPM)は配当を維持できたという点です。

 

つまり2020年の減配は「コロナだから仕方ない」というより、WFC固有の事業基盤の弱さと規制圧力が重なった結果でした。

 


 

4. FRB規制 ― 共通とWFC固有の違い

 

全ての大手銀行はFRBのストレステストや資本比率規制の対象です。

 

しかしWFCには他行と異なる追加の制約があります。

 

2016年の不正口座問題を受け、2018年にFRBはWFCに対して総資産の上限制(約1.95兆ドル)を課しました。

 

これは内部統制改善が完了するまで解除されない特別措置であり、JPMやBACには存在しない規制です。

 

2025年時点でこの制限は完全には解除されておらず、WFCは依然として事業拡大に制約を受けています。

 

現在の配当政策に直接的な制限はないものの、成長余力や資本戦略の柔軟性に影響を与え続けています。

 


 

5. 配当回復と現在の水準

 

大幅減配の後、WFCは経営改革やコスト削減を進め、配当を復活させています。

 

  • 2021年:0.60ドル
  • 2023年:1.30ドル
  • 2024年:1.50ドル
  • 2025年予想:1.80ドル

 

株価約81ドルベースでは予想利回りは2.2%前後。配当性向は約27%と低く、無理のない範囲で支払いが続いています。

 


 

6. 投資家にとっての意味

 

  • 安定的な四半期配当の復活
  • 利上げ局面で利ざや拡大の恩恵を受けやすい
  • 配当性向に余裕があり、今後の増配余地が期待できる

 

たとえば2015年に100株を購入した場合、当初の年間配当収入は147ドル。

 

2019年には192ドルに伸びましたが、2021年には60ドルまで減少。

 

それでも2025年予想では180ドルと回復し、長期保有ではインカム収入が再び戻りつつある状況です。

 


 

7. リスクと注意点

 

  • 不祥事再発によるブランド毀損リスク
  • FRB資産規制の完全解除が遅れる可能性
  • 景気後退による貸倒引当金増加
  • 為替リスク(ドル建て配当の円換算影響)

 

WFCは2009年と2020年に2度の大幅減配を経験しており、「銀行株に絶対の安定配当はない」 ことを象徴する存在でもあります。

 


 

まとめ

 

ウェルズ・ファーゴは金融危機と2020年の業績不振による減配で厳しい時期を経験しました。

 

しかし、現在は配当を回復させ、配当性向にも余裕が出ています。

 

他行と比べて規制面の制約は残るものの、再建と増配の過程にある銘柄として長期投資の候補に挙げられる存在です。

 

投資判断では、規制の行方と業績改善の持続性を慎重に見極める必要があります。

 


 

FAQ

 

Q1. 2020年の減配はなぜ起きたのですか?


→ コロナ禍の影響だけでなく、WFC自身の収益力の弱さ、信用損失引当金の増加、FRBの規制圧力が重なったためです。他の大手銀行が配当維持できたことからも固有の問題が大きかったといえます。

 

Q2. FRBの資産規制は現在も続いていますか?


→ はい。2018年に導入された総資産上限制は完全には解除されていません。配当に直接影響するほどの強い縛りではなくなっていますが、事業拡大や資本戦略の柔軟性に影響を与えています。

 

Q3. 現在の配当性向は安心できますか?


→ 約27%と低めであり、増配余地もあります。

 

Q4. 他の米銀と比べて利回りはどうですか?


→ JPMorganやBank of Americaと同水準で、突出した高さはないものの安定性は確保されています。

 

Q5. 長期で投資する場合の見通しは?


→ 2015年からの保有では一時的に配当が激減しましたが、現在は回復基調にあり、長期的には再びインカム収入の増加が期待できます。

 

Tags: 配当株 WFC
マーケット概況
Profile Image
投資忍者 プロフィール

米国株の投資情報、個人投資家向けの投資戦略、米国株式投資関連情報などを配信しています。

「企業の業績と株価は長期的に統一する」という考えで、米国株の長期的投資をしています。オプション取引では短期的には市場はランダムに動くと考えて取引しています。

元米国不動産アナリスト。米国MBA保有。海外生活約25年。個人投資家兼オプショントレーダー。